●ランダム系無機固体の光物性

光の波長程度の大きさをもつ誘電体がランダムに分散された系に光を入射すると、その光は誘電体により多重散乱をうける。散乱強度が十分に高い場合、多重散乱の結果光が媒質内に閉じ込められる現象が起こる。このとき媒質内に発光物質を導入すると放出光を閉じ込めることが可能であり、発光による光の利得が散乱による損失を上回るとき光の増幅が得られる。この多重散乱を利用したレーザーはランダムレーザーと呼ばれ、従来のレーザーにない特性をもち注目されている。また近年、散乱媒体と光反応材料を組み合わせることにより新規なホールバーニング効果の発現が報告された。この効果は多重散乱により形成される3次元的な干渉パターンが、光化学反応を通じて媒質内部に記録されることに基づく。したがって、入射光の波長だけでなく入射角や偏光状態の記憶が可能である。
 本研究室では、多重散乱体としてガラス微粉末や微粒子、あるいはゾルーゲル法由来の多孔体などを用い、多重散乱を利用した新規な光機能材料の創出を試みている。

多重散乱に基づくホールバーニング効果

Sm2+を含む散乱体にレーザーを照射すると媒質内部では光が多重散乱し、干渉の起きた光路上に存在するSmイオンのみが二価から三価へと光反応する。このときの光の入射角度を変えると、空間的に媒質内部の多重散乱光路が変化する。また、光の波長を変えると、輸送断面積が変化して光の平均自由行程が変化する結果、散乱強度の変化、すなわち、形成される干渉パターンが変化する。よって、特定の入射角度、波長で書き込みを行った後、レーザー強度を落としてSm2+の発光強度を測定すると、読み取り光の入射角度や光の波長が書き込み光のそれらと一致するときのみSm2+の発光強度の減少が見られ、角度次元や波長次元にホールが形成される。

多重散乱の経路が変わればホール形状も変化するため、温度や電場により配向状態を変え、それに伴い屈折率が変化する液晶を多孔体に導入すれば、ホールバーニング効果を外場により制御できると考えられる。そこで35℃でネマチック-アイソトロピック相転移を起こす5CBを用い、温度変化によるホールバーニング効果の制御を試みた(下図参照)。30、33℃でホールの読み取りを行ったときには、30℃で書き込んだホールのみが検出され、37、40℃では、40℃で書き込んだホールのみが検出される。これは35℃における液晶の相転移に伴い液晶の屈折率が大きく変化し、それぞれの温度において多重散乱光が異なる干渉パターンを形成するためであると考えられる。