●非晶質構造とスピン・ダイポール

アモルファス酸化物における磁気転移とスピンダイナミクス

磁性イオンを含有した酸化物ガラスやフッ化物ガラスのような非晶質のイオン性化合物は、空間的にランダムに分布している磁気モーメントをもつ固体の典型例である。それらのアモルファス磁性体は低温においてスピングラスあるいは超常磁性体で観察されるような磁気転移を示すことが報告されているが、その磁気転移のメカニズムや低温相における磁気的性質を完全に明らかにする実験は皆無である。特に磁気秩序相におけるスピンダイナミクスに関する研究はほとんどなされていない。そこで本研究では溶融急冷法により磁性イオンを含有した酸化物ガラスを作製し、その磁気転移の詳細を調べた。

上図左は20Fe2O3·80TeO2 (mol%)の組成をもつガラスの磁化率の温度依存性である。磁化率曲線は冷却過程(磁場冷却・ゼロ磁場冷却)に依存し、ゼロ磁場冷却過程では9K付近にカスプが見られる。これはスピングラスあるいは超常磁性に典型的な挙動であり、スピンが低温でランダムに凍結していることを示唆している。交流磁化率(上図右)測定では、交流磁場の周波数の上昇に伴いカスプ温度(Tc)の上昇が見られた。周波数変化に伴うカスプ温度のシフトの割合は、スピングラスに近い値であった。

低温でのスピン凍結の機構をより詳しく調べるために、ゼロ磁場中でのエイジングの効果を調べた。具体的な手順を上図左に示す。まず、磁場をかけない状態において、20 K(>Tc)から0.2 K/minで6 Kまで降温し、8時間エイジングを行った後、0.2 K/minで2 Kまで降温。そこで50 Oeの磁場を印加し、0.2 K/minで昇温しながら磁化率(χ(T))を測定。上述のプロセスでエイジングを行わずに磁化率χref(T)を測定したものを参照曲線とした。χ(T)およびχref(T)、またΔχ =χ(T)-χref(T) をプロットしたものを上図右に示す。右図において、ΔχはTcを中心に減少している。これはスピングラスに特徴的なメモリー効果や温度カオス効果が現れたものと解釈できる。
 現在、他の酸化物ガラス系でも同様の実験を遂行中である。また、スピングラスの磁性は脳の連想記憶との類似性が指摘されており(下図参照)、酸化物ガラスの磁性の解明が進めば、脳のメカニズムの理解への寄与も期待できる。
熱ポーリングによるガラスへの異方性誘起とSHG

物質に電磁波が入射したときに、その物質内で生じる誘電分極Pは電磁波の電場強度Eと電気感受率χ、真空の誘電率ε0を用いて上式で表される。電磁波が弱いときは線形項(右辺第一項)のみを考えればよいが、レーザー光など強い入射光に対しては、非線形項の寄与が無視できなくなる。非線形光学効果のうち、2次非線形項の寄与により生じるのが2次非線形光学効果である。

2次非線形光学効果の1つである第2高調波発生(SHG)を用いると、入射光の半分の波長の光を作ることができる(上図参照)。ニオブ酸リチウムやKDPなどの非線形光学結晶によるSHGはレーザーの波長変換に使われている。
 2次非線形感受率χ(2)は反転対称性のある物質ではゼロになるため、巨視的な等方体であるガラスでは通常SHGはみられない。

熱ポーリング(ガラスを加熱しながら、直流電圧を印加し、印加したまま室温まで温度を下げた後、電圧をきる、上図参照)をおこなうことで、ガラスに異方性を持たせることができる。熱エネルギーを与えることでガラス内のイオンが運動しやすい状態となり、そこに電圧が印加されることでイオンの移動/配向が誘起される結果、異方性が生じるとされているが、詳細はまだ明らかではない。異方性が出現する結果、熱ポーリング後のガラスではSHGが観察される。
 本研究室ではいくつかの酸化物ガラスや硫化物ガラスに熱ポーリングをおこない、SHG測定によりχ(2)を見積もっている。

Maker-fringe測定(上図左)により硫化物ガラスに対してSH光強度の入射角度依存性を測定した結果を上図右に示す。熱ポーリング温度によってSH光強度に大きな差が見られることがわかる。このガラスのガラス転移温度は290℃であり、ガラス内のイオンの移動度が異方性の発現に大きくかかわっていることが示唆される。